地域創生ファイル
受容と進化の街
北九州
ものづくりのまち再生の処方箋
TETT. 構想
世界初の海底トンネル、日本有数の貿易の要所、日本随一の工業地帯 。日本経済、日本の産業の幕開けは、いつも北九州からはじまった。
「鉄の都」とも呼ばれた北九州は、八幡製鉄所をはじめ、さまざまな工業系企業が集積した産業クラスターとして、20世紀の高度経済を牽引し支え続けてきた街だった。
1990年代後半から興ったインターネット革命以降、人々の暮らしは大きく変化した。ビジネス領域のデジタル化をはじめ、情報化社会における生活者の情報感度や嗜好の変容、スタートアップやフリーランスなど経済活動への参画方法も多種多様になった。産業と経済、消費行動、働き方に至るすべてのモデルが、様変わりしていっているのだ。
そうした中で、鉄の街、北九州は次第に競争力を衰退させてきた。グローバル競争など外部に要因を求めることもできるが、その根本にあるのは、北九州の唯一の強みをものづくりと捉え、それを進化させるという単線的な発想にあると、OKANOは考える。
振り返れば、19世紀からはじまる産業革命の時代、北九州のまちは、「工業化」という潮流をいち早く取り込み、どこよりも高い価値まで磨き上げた。そして、その「ものづくり」の力が、日本の高度経済成長を支える礎となった。敷衍するならば、「工業化」や「ものづくり」は新しい概念・アプローチを咀嚼し価値に転化させた結果であり、北九州の本質的な強みは、新たなアプローチを、地域の営みと融合するレベルまで昇華させる「受容と進化」にあるのだ。
現代に目を向ければ、DXの必要性やデザイン経営、働き方改革など、新たなビジネスモデルへの不可逆的なシフトが要請される時代となった。北九州というまち単位で考えると、経済・産業がまちの活性化を牽引するのは当然ながら、産業を支える人を集めるための、地域に閉じない人的ネットワークの構築、次世代人材の育成も重要なテーマだ。また、人を呼ぶまちの磁力も生み出さなければならず、それはハードのインフラだけではなく、文化面のユニークな魅力や、娯楽・住生活を充足させるソフトコンテンツの創出・拡充が不可欠だ。
産業・経済、地域コミュニティ、教育、文化育成。まちづくりのスケールでは、さまざまな観点からやるべきことは山積しており、そのすべては一朝一夕には成らない。しかし、北九州で長く事業を営んできた企業として、OKANOは「TETT.」構想、すなわち、まちの再活性化につながる“種まき”を行っていくつもりだ。以下で、その一部を紹介したい。
※TETT.とは
かねてより鉄の都と称されてきた北九州。その価値は引き継ぎながら、新しい都市として可能性を広げていくビジョンや活動の構想だ。鉄の都を引き継いでTETT.(テット)と名付けた。
動き始めるTETT.構想
地域企業のトランスフォーメーション
北九州を代表する老舗企業のひとつであるOKANOは、まず己からと、積極的にDXや新規事業開発に取り組んでいる。北九州にはかつて産業を牽引した街として、まだまだ地肩の強い尖った個性をもつ実直な企業が多い。これら企業は過去の成功があるからこそ、それに縛られ、近年のモノからコトへのシフト、産業のスマイルカーブ化への対応が遅れている。必要なのは、ベースの事業に、近代的事業構築力、マーケティング、DX、ブランディング、デザイン、アートといった要素を追加することだが、地方にはこの要素をもった人材はなかなか集まらず、コネクションを構築することも難しい。OKANOは近年培ってきたこれらノウハウ、ネットワークを広く地域企業に提供する構えだ。単社から地域全体としての動きに昇華させることが重要、OKANOはそう考えている。
人材バンク構想
もう一つ、地方の活力低下は街づくりをアクティブに担う若手の流出にも起因している。一方で、多くの若者が可能であれば出身地域で働きたいと考えているのも事実だ。この矛盾の背景には、BtoB企業が多い北九州市は尚更だが、地域企業がその存在や魅力を若者へリーチさせられていないことや、地域企業がアクティブな若者を活用する環境を整備できていないことがある。OKANOはこの課題を解決するトリクミも始めている。
これらトリクミは、地方創生人材プールプロジェクトとして、2022年から本格稼働する予定だ。
教育プログラム
日本全体、各地方都市は少子高齢化に喘ぐが、北九州市の高齢化率は日本でも屈指となっている。地方が活力を得るには、高齢者がより生産的になることも必須だ。OKANOでは高齢者がこれまで培った知識、スキルを社会に還元する仕組みづくりや、高齢者が学び直しをする場の構築にも着手している。学び直しは高齢者だけでなく、若い世代においても重要だ。10代~80代までの幅広い層に向けたスクール開催など、継続的な教育プログラムの準備を進めている。
文化的コンテンツの創出
しかし何かが足りない。これだけの素材を磨き、連動させる動きが地域ぐるみで行われてこなかったことが要因だ。今、北九州市では地方創生のプレイヤーも増えてきているが、財界との連動は微弱だ。OKANOは、地域のプレイヤー、外部のプレイヤー、そして財界と行政を結びつけ、そして自らもプレイヤーとなることで、文化面からも北九州の魅力づくりに携わっていく予定だ。
地域創生のシンボル開発
地域の本質に根ざした
トランスフォーム
現代は多様性の時代だと言われるが、北九州ほど多様性を内包した街はない。時が止まったかのような街角、その横に同居するクリエイティブな一角。そしてものづくりのまちの面影。
街の風景自体が、さまざまな概念やカルチャーを取り込み、独自に融合していく姿勢を表しているともいえる。
例えば東京のような先進事例の焼き直しは、この街の未来の有り様とは違っている。他者の真似事や表層的な変化ではなく、その地域、コミュニティの本質に根ざした変容こそが地方創生には必要不可欠だ。
OKANOは、「鉄の都」が産業、文化、人材のあらゆる側面から生まれ変わっていくと信じているが、北九州は地方創生のひとつのケースに過ぎない。北九州が先鞭をつけることで、日本各地のモデルケースとなりたい。
地域と、日本のものづくり、そして装置産業の再活性化。OKANOの挑戦は、これからも続いていく。