OKANOのトリクミ
N1

OKANOの門司本社屋に併設された工場が行橋工場に移転、集約されたのが2018年。同時に老朽化した本社屋を建て替え、全面リニューアルするプロジェクトがはじまった。本社住所の中町1丁目の頭文字を取って「N1プロジェクト」と名付けられた本プロジェクトは、面積15,064㎡、門司駅からすぐの敷地を地域や企業に開き、新たに北九州の象徴となる場を作ることを目指している。プロジェクトパートナーとして併走するのは株式会社スマイルズ。クリエイティブディレクター野崎氏を迎え企画のはじまりから現在までを振り返り、今後の展望を語った。

野崎 亙
WATARU NOZAKI
株式会社スマイルズ/取締役CCO/Smiles: Project & Company 主宰

京都大学工学部卒。東京大学大学院卒。株式会社イデー、株式会社アクシスを経て2011年スマイルズ入社。Soup Stock TokyoやPASS THE BATONなど社内全事業のブランディングやクリエイティブを統括。コンサルティング・プロデュースファーム、Smiles: PROJECT & COMPANYのクリエイティブディレクターも務める。

門司とOKANO
N1のはじまり

今日はよろしくお願いします。スマイルズさんとは2019年にプロジェクトをスタートさせていますが、こうして振り返る機会は初めてですね。

岡野 武治

確かにそうですね。我々がプロジェクトに参画させていただく前からプロジェクトは始まっていたんですよね。

野崎 亙

はい、きっかけはバルブ製造工場の集約だったんです。製造工場は戦前まで門司の1箇所だけだったんですが、戦中に行橋にも拠点を作りました。この背景には軍部の影響があるのですが、その話をすると長くなるので今回は割愛します。 門司は小型中型のバルブ製造を、行橋は大型バルブとバルブ素材の製造を担っていたのですが、2018年に2つを集約して効率化しました。

岡野 武治

本社工場は随分長い間稼働したんですね。

野崎 亙

1934年からなので84年間ですね。創業は1926年で門司に落ち着いたのが創業10年ぐらい。それからずっと門司で製造していたのですが、行橋に工場を集約すると門司の工場跡地が空いてしまう。

岡野 武治

敷地面積は広いですもんね。どのくらいでしたっけ。

野崎 亙

表の国道3号線からは解りにくいですが奥に広がっていて、1.5ヘクタール、東京ドーム1個分ですね。本当かな?と思って調べてみたら、厳密には東京ドームのグランド1個分でした(笑)。

岡野 武治

建物が建っていると広さが分からないですけど、更地になったらかなりの広さですよね。100万人都市の主要駅の直近でこれだけの土地が空くことはなかなかないですよね。

野崎 亙

そうですね。当然当社の発展にこの場所を活用したいというのがベースではあるのですが、同時に北九州の発展や、地域創生、イノベーションのモデルケースになるような場を作れないかと考え始めたんです。

岡野 武治

吸引力のある場所を
作りたい

最初はどのように進めようとされていたんですか?

野崎 亙

我々はバルブ屋なので場作りの知見はなく、まずはパートナー探しから始めました。感覚が近いパートナーを見つけたかったのでコンセプトだけを伝えたのですが、各社さんのお持ちになった案は、マンションを建てましょう、薬局やスーパーを作りましょうといった案ばかりで…現実的で堅い案なのは解るのですが、全然心が躍らない。今のこの地域の状況にあわせたスケールではなくて、今の状況を打ち破ることがしたかったんです。そんなパートナーはいないのかなと思っていた時に、スマイルズさんと出会ったというわけです。

岡野 武治

最初は初対面でちょっとへんてこな提案をしましたね。ビルの中に山を作ろうとか(笑)。

野崎 亙
スマイルズから提案された初回プレゼン資料の一部。

やっと期待していたぶっ飛んだところに出会えた!という印象でした(笑)。
あらためてスマイルズさんがいろいろと面白いことをやっていると知って、是非一緒に作っていきたいな、と。

岡野 武治

北九州をあまり知らないうちに「こんなところがあったら行きたい」と妄想を膨らませながら作ったのが良かったのかもしれないですね。その後、何度か門司や北九州を見てポツポツと色々な動きをされている方が多いという印象を持ちました。我々も知ってる巨大企業からニッチだけれども尖っている企業まで幅広くいて、スタートアップやベンチャー、社会的なトリクミをされている方々もいる。珍しい場所だなと思います。

野崎 亙

でもそれらが連動していないのが残念なところなんです。個々の動きはあるけど、連携や相乗効果はあまりないイメージです。結果的に大きなうねりにならず、北九州市という街としては年々衰退していっています。

岡野 武治

そこで吸引力のある場所を創りたいという考えになったんですね。

野崎 亙

そうです。今言われたプレイヤー以外にも、地域住民の方々や、地域外のプレイヤーまでを含めて吸引力のある場です。

岡野 武治

ビジネスと暮らしと学びを
シームレスに

岡野さんの考えを聞くと、N1には「ビジネス」「暮らし」「学び」の三つの側面と、それらが「シームレスにつながる」ということがあると思います。まずは「ビジネス」について考えを聞かせてもらえますか?

野崎 亙

北九州の企業は各社尖った強みを持っていますが、それだけで戦える時代ではなくなってきています。それでも職人気質にひたむきに、真っ向勝負しようとしている企業が多い気がするんです。
本質的な強みを輝かせるためにはビジネスやデザインの要素が必要だと思うんですが、苦手な企業が多いんですよ。ITも不得手です。マーケ、IT、クリエイティブ、アート系といった企業や個人を誘致し、地元企業も引き込み、マッチングさせる場にしたい。

岡野 武治

マーケ、IT、クリエイティブ、アート系の企業は首都圏に集中していますが、IT技術の進歩やコロナの影響もあって、必ずしも首都圏にいる必要はないという動きになっていますね。地方に移転してすぐにクライアントが見つかる場がある、というのは良いかもしれませんね。

野崎 亙

これが上手く回ると、地域外からも地域企業が集まり、さらに首都圏企業の進出も増えるという良い循環が生まれるのではないかと期待しています。

岡野 武治

居心地と刺激を

今回のN1プロジェクトで特徴的だと思っていたのは、この場所をビジネスサイドだけでなく街に開いていこうとされている点でした。企業目線だけでなく従業員や生活者の接点になるものも作ろうとしていますよね。

野崎 亙

各地の企業やビジネスパーソンの誘致をおこなっている施設に行くこともあるのですが、個人的な印象として、キレイなところは多くても魅力を感じる所は少ないんですよね。無機質というか、人工的で。働くための機能性だけではなくて、仕事も生活の一部ですから、働きながら豊かに暮らせて、文化を感じられる場所じゃないといけない。優秀な人材を抱える企業は特にそれを重視しています。

岡野 武治

欧米の勢いのある企業はそのような職場づくりに注力していますよね。よく女性や子どもが来たくなる場所にしたいとおっしゃいますが、それはどのような意図なんです?

野崎 亙

ビジネスパーソンだけの空間はイメージと違って。街の営みと一体化することによって、ビジネスパーソンも精神的に充実すると思うし、その他にもさまざまなプラスの影響があると思うんです。

岡野 武治

たしかにそうですね。働く側からしても、N1の場所に実際に生活者がいると実証実験的なこともできるし、その人たちを見て思いつく発想みたいなものもあるかもしれないですよね。

野崎 亙

ビジネスパーソン以外もウェルカムな場所にしたいという意味で、代表例として女性や子どもをあげています。平日の昼間の滞在場所に自由があるのは主婦や未就学の子どもです。彼女たちがいてくれることで空間にも厚みがでます。それに、この街には子育て世代の奥さんや子どもが憩える場所が少ないんですよ。この問題を解決したい。

岡野 武治

その層にとって行きたい場所になると、旦那さんやお兄ちゃんお姉ちゃん、おばあちゃんおじいちゃんにまで波及しますね。それに、外部から誘致したい企業の従業員さんやご家族にとっても、そのような環境が地域にあるかどうかは重要です。

野崎 亙

なんでもかんでも詰め込むという意味ではなく、ビジネスパーソンにとっても、その他の老若男女にとっても、行きたくなる、刺激的で居心地の良い空間にしたいなと考えています。

岡野 武治

N1の中心は全天候型の広い空間になっていて、そこでは子どもが遊べて、親はそれを見守りながらカフェでくつろいだり、買い物をしたりできる。そんな場所にしたいとおっしゃっていたのは、そういった考えからなんですね。

野崎 亙

スマイルズさんからご提案いただいた、夜は夜市のような空間でビジネスパーソンもそれ以外の方も飲み食いしながら語れる空間を、という案も大好きです。

岡野 武治

住まう人にも働く人にも刺激的な場は両立できると思っています。
僕は最近、逆説的に地方が面白いなあと思ってます。東京や都心のリスクは地価が高すぎることなんですよ。行政が支援に入らない限り、リスクが高すぎて大胆なことができない。結果的にあんまり面白くならないのはよくあることです。
でも地方における開発では地方に還元したいという意識ある方々が思い切ったことをされている。土地も安いし、都心から離れるといい意味で注目度も高まらないから思い切ってやれる。こういったケースが増えていると思います。

野崎 亙

無意識のための
シームレス

才能や能力やセンスというのは「子どもの頃に触れてきたかどうか」が一番大きな要素だと感じています。好きではなくても興味がなくても、触れてきていれば、やろうと思えば人並以上にはできるようになる。先天的に才能があって、好きでそれにのめり込めば、その道のプロフェッショナルとなる。青年期や大人になってから努力をした人と、幼いころから触れていた人ではやはりベースが変わってくる。結果的に触れる機会が多いのは 、金銭的に裕福な子ども達が多くなっていると思います。それではアンフェアだし、多くの可能性を潰すことにもなる。だから、N1ではこの「触れる」ということが自然とできる場にしたい。

岡野 武治

「触れる」といっても、具体的にどのようなものに触れられるようにしたいのですか?

野崎 亙

具体的な目的性を伴わないものに触れても意味がないと思っています。それらは今の日本の教育が提供しています。繰り返しになりますが、今後の社会で重要視される、ビジネス、IT、クリエイティブ、アート、こういったものに触れるというか、図らずも触れてしまう場所にしたいですね。

岡野 武治

そういう意図から、誘致企業と地域の子どもさんや住民の方が交じり合う仕掛けにしたり、建築自体へのこだわりやデザインやアートのエッセンスも入れたり、ということを考えているんですね。

野崎 亙

強制された時点で意味がなくなると思っています。無意識に触れていつの間にか会得していたり、その道に進んでいるというのが理想です。建築家とかデザイナーになったんだけど、思い起こせば地元にN1って場所があってそこで自然と触れてたのがきっかけかもしれませんね、とか、ITエンジニアのおじさんと触れ合ったのがきっかけで自分もITエンジニアになったとか、大人がビジネスの会話をしているのを聞くのが日常で自分も起業家を目指したとか、なんならその会社に入っちゃったとか、最高ですね。

岡野 武治

プロジェクトの中で、岡野さんは「シームレスにつなぐ」ということを度々おっしゃっています。それは、ビジネス同士だけでなく、ビジネス、IT、クリエイティブ、アートと、子どもだけでなく人が繋がるようにする、それも自然に、ということを 指しているんですね。

野崎 亙

その通りです。子どもを例にあげましたが、主婦や学生やあらゆる人にとって可能性が拡がるし、企業側にとっても非ビジネスと常態的に繋がっているとビジネス上のヒントや気づきも多いと思います。
北九州地域から日本や世界に羽ばたいていく人材がどんどん出てきてほしいんですよね。「この人もあの人も北九州出身なんだ」みたいな状態が作れたらいいなあ、というのが個人的な夢です。

岡野 武治

イノベーションスペースで、
イノベーションは起こらない?

今、都心にもイノベーションスペースと呼ばれる場所がありますが、切迫感がなくてなかなか「コト」が起きないんですよね。でも、僕が北九州で感じたのは、少なくとも個人レベルでは切迫感があって「なんとかせねば」と思っている人たちが相当数いる。だから、N1で1つでも具体的にわかりやすい何かが起きたら、それを見た企業が突然変わり始める、なんてこともありそうですよね。

野崎 亙

そうですね。あと、イノベーションは大事だけれど「ここはイノベーションを起こす場です」ってはじめに言ってしまったら、それで終わりになってしまう気がしています。

岡野 武治

分かります。

野崎 亙

イノベーションと言わずとも、自然にそれが起きる場にすべきかなと思っています。イノベーションは起こしたくなって起こすものなので空気感が大事なんじゃないかなと思うんです。だから水先案内人のようなイノベーティブな人が集まるような環境を作って、実際に結果を見せていくのが理想です。

岡野 武治

大事なのは実際に行動する人たちにとって行きたくなる場所にすることですよね。なんだか場がワイワイしていて楽しそうだからって人が集まっていたら横のつながりが自然と生まれたり、オープンな場で活動していると知らない人から「君おもしろいね」って言われたり、酒の席みたいに勝手につながって、いい意味で謎の場になっていくといいですね。

野崎 亙
N1の広場の初期イメージイラスト

北九州、門司のあの場所は、住と職の距離感やボリューム感が本当に適度ですよね。もう少し地方になるとビジネス的な要素が薄れてくるし、ここは現代的な働き方をしている人とも繋がれます。同じ時間に子どもが遊んでいて、奥さんは広場でお茶していて、そのすぐ隣で旦那さんが働いているというのもありえますね。

野崎 亙

これは完全に妄想ですけど、先ほど「刺激的な場所」という言葉が出た時にパッと思いついたのは建物全体がアスレチックみたいになっている。滅茶苦茶ですけど建物の真ん中にジップラインみたいなワイヤーが通っていて、子どもがメインなんだけど大人も使えて、ビジネスマンがこっちの会議からこっちの会議にエクストリーム移動している(笑)。

岡野 武治

お子さんたちに混じって大人もはしゃいでいるんですね。それは刺激的です(笑)。
建物の中に突然それが発生しているのとか、ちょっと今まで見たことがない 。

野崎 亙

単純に職と住と学の一体ということじゃないんですが、それらがすごく関与していて「働く場」も「住まう場」も「学ぶ場」もある。複雑性が高くて、確実性ももちろん担保しながら面白く刺激的でもありたいというのが理想です。

岡野 武治

面白い。それを面白がってくれる企業も多そうですね。

野崎 亙

もちろんOKANOが主体でやっていきますが、まずは協力してくれるパートナー企業もしっかり見つけたいと思っています。地場の企業や個人はもちろん、外部の方々も含めて事業構想や事業構築を短いピッチで繰り返していくような方々と、企ての連続でこの場を作り上げていきたいですね。

岡野 武治

これから、まさにその構造を作っていくフェーズに入りますもんね。
きっと、自分たちだけでは踏み出せなくて、誰か言い出してくれないかなみたいに、待っている企業さんもいると思います。OKANOが言いだしっぺになって、そこに賛同する方々が集まって熱量が溜まっていく。そんな場所が生まれることで、ファンクションは必然的に後からついてくると思います。

野崎 亙

はい。ここから増々ペースをあげていきたいと思っています。スマイルズさんも、刺激的な場を作るパートナーとして、これからもどうぞよろしくお願いします。

岡野 武治