OKANO PARTNERSINTERVIEW QUANDO スタートアップと語る 地域を 元気にする方法 OKANOが活動を共にするパートナーをゲストに迎え、これからの地域、これからの産業について、共に考えるOKANO PARTNERS。今回は「地域産業のアップデート」をミッションに北九州市で活動するクアンド代表、下岡純一郎さんを迎えて、ものづくりの街、北九州の今後についてお話を伺った。八幡製鉄所の前で生まれ育ったという下岡さん、地域の今後についてどのようなお考えをお持ちなのか、代表の岡野が聞いた。 下岡 純一郎 JUNICHIRO SHIMOOKA QUANDO代表取締役 クアンド 代表取締役CEO。福岡県北九州市出身。九州大学理学部、京都大学大学院卒。P&G、博報堂コンサルティングを経て、2017年、地域産業のアップデートをミッションとする会社クアンドを創業。建設業など現場仕事の効率化と働き方の改善を目的としたツールの開発やコンサルティング事業を展開している。 ベンチャーと老舗と 最初にお会いしたのは下岡さんが創業したばかりの頃だったかな。市主催の北九州老舗企業が集まる場があって、そこでプレゼンしていたのが下岡さんでしたね。 岡野 武治 クアンドは2017年4月に創業したので、岡野さんとお会いしたのはもう4年前ですね。 下岡 純一郎 当時私は自社の業界にどっぷりで、単なる無知だったんだけど、勝手に北九州には大きな変革をおこすような人材は残っていないと思い込んでました。下岡さんを見て、「おるやん!」と目からウロコで、すぐに「何か一緒にやろう」という話をしたんですよね。下岡さん、クアンドは、地域産業をアップデートするというミッションを掲げてますよね? 岡野 武治 はい。私はもともとP&Gに勤めていて、父親も建設業、生まれたのも八幡製鉄所の真ん前だったので製造の現場にずっと接してきたんですね。ですので、ものをつくるとか現場をつくる仕事って面白いと思っていました。あと単純にゲームとかブロックチェーンとかデジタルで完結するよりはデジタルでそれをどう変えていくかというところに興味を持っていました。 下岡 純一郎 P&G時代はイタリアにもいたんですよね。 岡野 武治 はい。あと海外で働いてみて感じたのですが、アメリカの会社はピラミッド型である一方、イタリアでは地域経済とか既存の古いものも使っていこう、というような風潮があって、ヨーロッパは地域にそれぞれの色があって産業が成り立っている文化なんです。それが、いいなと思って。 下岡 純一郎 それが、地域という視点に繋がるわけですね。 岡野 武治 そうです、日本に帰ってくると外から見てすごくいいところもあるし、北九州という製造業の街で、産業が次の時代に合わせて変わる必要も肌で感じていて、それに携わりたいというのもあって、「地域産業をアップデートする」というミッションを掲げて起業したんです。 下岡 純一郎 下岡さんとは、まさにその創業の頃に会ったんですね。当時、OKANOとしてはコア事業のDXを進めたいと考えていたので、すぐにクアンドさんと一緒にプロジェクトを始めることになって、最初はVQの共同開発からでしたね。 岡野 武治 VQ事業におけるバルビキタス(●注釈)は、岡野さんの構想があって、それを形にしていく段階で、僕たちがお手伝いさせていただくことになりました。 下岡 純一郎 ● バルビキタス バルビキタスとはバルブの保全に関係する多様な情報を蓄積したデータベースに、従来エンジニアが実施していた判断を半自動化したアルゴリズムを搭載する情報システム構想。 プロジェクトがスタートした時は、クアンドさんはベンチャー企業の雰囲気や文化を持っていて、一方、OKANOの担当はコテコテの老舗企業文化で育ってきたので、うまくいかないことも多かったですが、一年くらいかけて融解しながら進んでいったんですね。下岡さんはどんな印象でした? 岡野 武治 もちろん現場は昔からのやり方が残っている部分もあるのですが、OKANOさんの場合は新しいことにチャレンジしようというマインドをお持ちで。 創業した頃は、OKANOさんはじめ、革新しようというマインドを持った地元のオーナー企業さんからお仕事をいただいて、会社を軌道に乗せることができたんですね。 そういった意味では、北九州という地元から受け入れていただけたのかなと感じました。 下岡 純一郎 北九州は外に向かっている? 私個人としては下岡さんは、北九州を今後どうしていくべきか、という共通の課題感を持っているのかなと思ってます。クアンドさんはもともとは北九州のアップデート、レガシー産業のアップデートという色が強かったけれども、最近は福岡にも広がってますよね? 岡野 武治 「北九州を」と限定してしまうのはあまりよくないな、と最近思うようになってきたんです。やはりやるべきは地域産業のアップデートなので北九州ばかりにフォーカスを当てるのはちょっと違うかなと思うようになりました。 下岡 純一郎 北九州には思い入れがなくなった(笑)? 岡野 武治 そんなことはないです(笑)。地域経済を考えるうえでは、外貨を稼ぐ、要は地域外からお金を流入させるところが重要だと思っているので、場所としての北九州というのは大事だけれど、その中に本社がなきゃいけないとか採用も閉じなきゃいけないとか制限を設けたくないんですね。 下岡 純一郎 それは私も同じで、北九州ということに限定していては地域は考えられないですよね。 岡野 武治 すごく面白いと思うのは福岡と北九州は真逆な都市だという点です。 下岡 純一郎 それは具体的に言うと、どういった点ですか? 岡野 武治 福岡のビジネスはほとんどが内に向いている、つまり内需をつくるビジネスなんです。 バスや電力、新聞社、テレビ局、飲食系などのビジネスは、基本的にその域内の人たちに向けたサービスなので、そこに人口が増えれば増えるほどビジネスは大きくなります。 だから民間も行政も組んで人口を増やして、そこに住みやすい街を作ることへのインセンティブが働くんです。 下岡 純一郎 地域を活性化することに企業として実益があるということですね。 岡野 武治 北九州はその逆で、基本的にビジネスが外に向いているんです。 地域内のことは気にしていないと言うか、地域とコラボレーションとかはあまりなくて、それなら海外とやりますとか、いい意味で地域に執着していなくてどんどん外に出て行く。 下岡 純一郎 私も北九州が外に向かって仕事をしている印象は受けますね。 岡野 武治 私は、北九州の中ではOKANOさんは特殊だと思っていて、ビジネスを外にしているけれど、地域内で人を結びつけるとか地域に人をどう呼んでくるかに着目していますよね。 だから色々なひとたちが集まってきているのだと思います。 下岡 純一郎 なるほど。各々の領域でそれぞれが成長するには外を向いててもいいのかもしれないけど、結果的に北九州の産業は衰退している。そこで一番問題になるのは人材を集めにくくなっているという点だと思ってます。 世界レベルの企業であれば話は別ですけど、そうでない企業は採用面でも厳しい。街の規模を維持するという面からも、人材が大事なんじゃないかと考えています。 岡野 武治 地方に人材を集めるには どうすれば人材を集められるか。「ものづくりの街北九州をどうする?」というような話ではなく、それは結局、過去の遺構なので、それにこだわり過ぎても成長性はないと思っています。 岡野 武治 そうですね、私も同じような考えですね。 下岡 純一郎 北九州は工業化の中心地として新しいものを受け入れて発達してきたので、そういった視点から新しい街を作れないかと考えています。 DXもその新しいものの一つだと思っていて、クアンドさんのようにDXを推進する会社と一緒に北九州のまちを活性化させる。そしてその文化に若い人が惹かれて、人材が流入してくるといいなと思っています。 岡野 武治 人材獲得についてはスタートアップ企業では最近、潮流が変わってきているようですね。アメリカのIT企業ではリモートをやめて、魅力的なオフィスを作って優秀な人材を集める一方、資本を持たないスタートアップは、人材をグローバルに集めてオンラインで仕事を完結させる。人も特定できない、アイコンしか分からないけれど、しっかりタスクは完了させるというスタイルも生まれつつあります。 下岡 純一郎 働き方も多様化しているけど、同時に原点回帰の動きもありますよね。いずれにせよ地方企業はそこの適応ができないと、今後ますます人材を集められなくなる。 私は今、人材プールみたいな形で人を集めて、プロジェクトベースで地方企業の経営課題を解決するような仕組みを創ろうとしています。特に北九州はマーケティングや事業構築の分野で優秀な人材が必要なのですが、優秀な人材を抱え込むほどの体力や仕事量は単社ではまだない。地域単位でプールすれば、各社の必要に応じて対応できるのではと考えています。 岡野 武治 地方に必要なのは翻訳機能かなという風に思っています。 東京で高度人材と言われる人材と地方の企業が直接やろうとしても、言語が違うのでうまくいかないと思うんです。お互いをつないで橋渡しできる役割が必要だと思っていて、そういった存在を創りたいと思っています。 岡野 武治 北九州のユニークネス ビジネス以外の視点で見ると北九州にはどういう魅力があると思いますか? 岡野 武治 北九州って博打、賭けごとが全部揃っていたり、ちょっと危ない香りがするんだけれども、それが文化になっているところが街として面白いと今は思っています。 下岡 純一郎 北九州市、小倉地区に残る昔ながらの飲み屋街 雑多な感じは私も大好きなところです。ドヤ街っぽいところもあれば、洗練された雰囲気のところも、歴史がある所もある。私は途上国の繁華街の雰囲気が好きで、学生時代はバックパッカーで色んな国に行きましたが、そのルーツもここにあるのかもしれません。 岡野 武治 北九州は都市として正統派な攻め方はできないと思うんです。スマートな都市というよりは小倉駅の裏みたいなサブカルチャーの色が面白いという人が集まるのではないかと。 福岡のように新しいレストランできました東京のミニ版です、みたいなものではなく。 新しい物ってすぐ作れるじゃないですか。でも、小倉駅裏手の古い感じはなかなか作れない。 下岡 純一郎 特に地方都市は、日本でもここだけとか、世界でもここが一番みたいな個性をつくっていかないと厳しいですよね。北九州は昔が公害や暴力のイメージがあったことも影響してか、環境都市とかコンパクトシティとか「キレイ」な方向を目指すところがあるけど、そんな没個性を志向してはダメだと思っています。 折角これだけ歴史と味がある街なんだから、それを活かしていくべきだし、その方向で幅を拡げていった方がいい。サブカルの話が出ましたが、音楽、ファッション、ストリート系のカルチャー、アートとか、そういうものでエッジを効かせてギークな街になれば、若者も離れなくなるし、むしろ集まってくるのではないかと。 岡野 武治 年々人口が減少して街に隙間ができているからこそ、逆にそれらが入る余地も多いですよね。 我々が好きな沖縄のコザもまさにそんな感じで、熱量に若者が集まってきています。コザを含む沖縄市は人口10数万人ですから、年々人口減少しているとはいえ、まだ90万人以上がいる北九州ならば更に大きなスケールでできます。コザも米兵が爆音でワイワイやっているバーの真横に、沖縄のおばあちゃんがやっている地元の洋服屋があったりと、意外と普通に共生してる。もともと何でもありの気質の北九州は更に向いていると思います。 下岡 純一郎 ディープな環境で育った方が、免疫の強いタフな人間になる。北九州は著名人も多く輩出していますが、そうなると更に色々な分野でタフでエッジの効いた人材が出てくるのが期待できます。IRが話題だったときも、北九州は結局、行政、財界、市民が一枚岩になれずに尻すぼみで終わった感じがしましたが、そもそも公営ギャンブルが全部そろってるレアな街だし、現状の成長戦略もいまひとつなので、いっそ振り切ってオール北九州で誘致すれば良かったのではと思いますね。 岡野 武治 もちろんそうじゃない方も当然一定層いるでしょうが、歴史の上で今更クリーンなイメージを作ろうとしても、というのもありますね(笑)。ギャンブルの酸いも甘いも知っている北九州だからこそ、ギャンブルをアートにまで高めました、世界で一番エキサイティングで、なおかつギャンブルとも共生できている街です、というのもありかもしれません。 下岡 純一郎 クアンドとOKANOの構想 話を戻しまして、最後に我々は実業家としてどのような北九州をつくっていきましょうか? 岡野 武治 我々はやはり、地域産業、レガシー産業をアップデートすることです。北九州は底力の強い企業が多いので、これをデジタルでアップデートできれば地域としても可能性は大きくあります。産業が強くなれば人も集まってくる、人が集まれば産業もまた強くなります。 下岡 純一郎 同時に、日本中、いや世界中のITエンジニアや起業家にとって働きやすい、目指したくなるような街に北九州がなれると、また更に可能性は拡がると思います。 岡野 武治 岡野さんが私やクアンドに一番期待してるのは、その水先案内人になることですよね(笑)。弊社も事業規模を大きくして、いろいろなプロジェクトでご一緒したいと思っています。北九州がギークな街であれば、彼らもより惹きつけられると思います。 下岡 純一郎 当社もアップデートできた企業と自信をもって言えるように努力します。お互い風呂敷は大きく広げているのでハードですが、その分やりがいも大きい。気合をいれていきましょう。本日はありがとうございました。 岡野 武治 NEXT 地方創生ファイルTETT 受容と進化の街 北九州
ベンチャーと老舗と
最初にお会いしたのは下岡さんが創業したばかりの頃だったかな。市主催の北九州老舗企業が集まる場があって、そこでプレゼンしていたのが下岡さんでしたね。
クアンドは2017年4月に創業したので、岡野さんとお会いしたのはもう4年前ですね。
純一郎
当時私は自社の業界にどっぷりで、単なる無知だったんだけど、勝手に北九州には大きな変革をおこすような人材は残っていないと思い込んでました。下岡さんを見て、「おるやん!」と目からウロコで、すぐに「何か一緒にやろう」という話をしたんですよね。
下岡さん、クアンドは、地域産業をアップデートするというミッションを掲げてますよね?
はい。私はもともとP&Gに勤めていて、父親も建設業、生まれたのも八幡製鉄所の真ん前だったので製造の現場にずっと接してきたんですね。
ですので、ものをつくるとか現場をつくる仕事って面白いと思っていました。あと単純にゲームとかブロックチェーンとかデジタルで完結するよりはデジタルでそれをどう変えていくかというところに興味を持っていました。
純一郎
P&G時代はイタリアにもいたんですよね。
はい。あと海外で働いてみて感じたのですが、アメリカの会社はピラミッド型である一方、イタリアでは地域経済とか既存の古いものも使っていこう、というような風潮があって、ヨーロッパは地域にそれぞれの色があって産業が成り立っている文化なんです。それが、いいなと思って。
純一郎
それが、地域という視点に繋がるわけですね。
そうです、日本に帰ってくると外から見てすごくいいところもあるし、北九州という製造業の街で、産業が次の時代に合わせて変わる必要も肌で感じていて、それに携わりたいというのもあって、「地域産業をアップデートする」というミッションを掲げて起業したんです。
純一郎
下岡さんとは、まさにその創業の頃に会ったんですね。当時、OKANOとしてはコア事業のDXを進めたいと考えていたので、すぐにクアンドさんと一緒にプロジェクトを始めることになって、最初はVQの共同開発からでしたね。
VQ事業におけるバルビキタス(●注釈)は、岡野さんの構想があって、それを形にしていく段階で、僕たちがお手伝いさせていただくことになりました。
純一郎
プロジェクトがスタートした時は、クアンドさんはベンチャー企業の雰囲気や文化を持っていて、一方、OKANOの担当はコテコテの老舗企業文化で育ってきたので、うまくいかないことも多かったですが、一年くらいかけて融解しながら進んでいったんですね。下岡さんはどんな印象でした?
もちろん現場は昔からのやり方が残っている部分もあるのですが、OKANOさんの場合は新しいことにチャレンジしようというマインドをお持ちで。
創業した頃は、OKANOさんはじめ、革新しようというマインドを持った地元のオーナー企業さんからお仕事をいただいて、会社を軌道に乗せることができたんですね。
そういった意味では、北九州という地元から受け入れていただけたのかなと感じました。
純一郎
北九州は外に向かっている?
私個人としては下岡さんは、北九州を今後どうしていくべきか、という共通の課題感を持っているのかなと思ってます。クアンドさんはもともとは北九州のアップデート、レガシー産業のアップデートという色が強かったけれども、最近は福岡にも広がってますよね?
「北九州を」と限定してしまうのはあまりよくないな、と最近思うようになってきたんです。やはりやるべきは地域産業のアップデートなので北九州ばかりにフォーカスを当てるのはちょっと違うかなと思うようになりました。
純一郎
北九州には思い入れがなくなった(笑)?
そんなことはないです(笑)。
地域経済を考えるうえでは、外貨を稼ぐ、要は地域外からお金を流入させるところが重要だと思っているので、場所としての北九州というのは大事だけれど、その中に本社がなきゃいけないとか採用も閉じなきゃいけないとか制限を設けたくないんですね。
純一郎
それは私も同じで、北九州ということに限定していては地域は考えられないですよね。
すごく面白いと思うのは福岡と北九州は真逆な都市だという点です。
純一郎
それは具体的に言うと、どういった点ですか?
福岡のビジネスはほとんどが内に向いている、つまり内需をつくるビジネスなんです。
バスや電力、新聞社、テレビ局、飲食系などのビジネスは、基本的にその域内の人たちに向けたサービスなので、そこに人口が増えれば増えるほどビジネスは大きくなります。
だから民間も行政も組んで人口を増やして、そこに住みやすい街を作ることへのインセンティブが働くんです。
純一郎
地域を活性化することに企業として実益があるということですね。
北九州はその逆で、基本的にビジネスが外に向いているんです。
地域内のことは気にしていないと言うか、地域とコラボレーションとかはあまりなくて、それなら海外とやりますとか、いい意味で地域に執着していなくてどんどん外に出て行く。
純一郎
私も北九州が外に向かって仕事をしている印象は受けますね。
私は、北九州の中ではOKANOさんは特殊だと思っていて、ビジネスを外にしているけれど、地域内で人を結びつけるとか地域に人をどう呼んでくるかに着目していますよね。
だから色々なひとたちが集まってきているのだと思います。
純一郎
なるほど。各々の領域でそれぞれが成長するには外を向いててもいいのかもしれないけど、結果的に北九州の産業は衰退している。そこで一番問題になるのは人材を集めにくくなっているという点だと思ってます。
世界レベルの企業であれば話は別ですけど、そうでない企業は採用面でも厳しい。街の規模を維持するという面からも、人材が大事なんじゃないかと考えています。
地方に人材を集めるには
どうすれば人材を集められるか。「ものづくりの街北九州をどうする?」というような話ではなく、それは結局、過去の遺構なので、それにこだわり過ぎても成長性はないと思っています。
そうですね、私も同じような考えですね。
純一郎
北九州は工業化の中心地として新しいものを受け入れて発達してきたので、そういった視点から新しい街を作れないかと考えています。
DXもその新しいものの一つだと思っていて、クアンドさんのようにDXを推進する会社と一緒に北九州のまちを活性化させる。そしてその文化に若い人が惹かれて、人材が流入してくるといいなと思っています。
人材獲得についてはスタートアップ企業では最近、潮流が変わってきているようですね。アメリカのIT企業ではリモートをやめて、魅力的なオフィスを作って優秀な人材を集める一方、資本を持たないスタートアップは、人材をグローバルに集めてオンラインで仕事を完結させる。人も特定できない、アイコンしか分からないけれど、しっかりタスクは完了させるというスタイルも生まれつつあります。
純一郎
働き方も多様化しているけど、同時に原点回帰の動きもありますよね。いずれにせよ地方企業はそこの適応ができないと、今後ますます人材を集められなくなる。
私は今、人材プールみたいな形で人を集めて、プロジェクトベースで地方企業の経営課題を解決するような仕組みを創ろうとしています。特に北九州はマーケティングや事業構築の分野で優秀な人材が必要なのですが、優秀な人材を抱え込むほどの体力や仕事量は単社ではまだない。地域単位でプールすれば、各社の必要に応じて対応できるのではと考えています。
地方に必要なのは翻訳機能かなという風に思っています。
東京で高度人材と言われる人材と地方の企業が直接やろうとしても、言語が違うのでうまくいかないと思うんです。お互いをつないで橋渡しできる役割が必要だと思っていて、そういった存在を創りたいと思っています。
北九州のユニークネス
ビジネス以外の視点で見ると北九州にはどういう魅力があると思いますか?
北九州って博打、賭けごとが全部揃っていたり、ちょっと危ない香りがするんだけれども、それが文化になっているところが街として面白いと今は思っています。
純一郎
雑多な感じは私も大好きなところです。ドヤ街っぽいところもあれば、洗練された雰囲気のところも、歴史がある所もある。私は途上国の繁華街の雰囲気が好きで、学生時代はバックパッカーで色んな国に行きましたが、そのルーツもここにあるのかもしれません。
北九州は都市として正統派な攻め方はできないと思うんです。スマートな都市というよりは小倉駅の裏みたいなサブカルチャーの色が面白いという人が集まるのではないかと。
福岡のように新しいレストランできました東京のミニ版です、みたいなものではなく。
新しい物ってすぐ作れるじゃないですか。でも、小倉駅裏手の古い感じはなかなか作れない。
純一郎
特に地方都市は、日本でもここだけとか、世界でもここが一番みたいな個性をつくっていかないと厳しいですよね。北九州は昔が公害や暴力のイメージがあったことも影響してか、環境都市とかコンパクトシティとか「キレイ」な方向を目指すところがあるけど、そんな没個性を志向してはダメだと思っています。
折角これだけ歴史と味がある街なんだから、それを活かしていくべきだし、その方向で幅を拡げていった方がいい。サブカルの話が出ましたが、音楽、ファッション、ストリート系のカルチャー、アートとか、そういうものでエッジを効かせてギークな街になれば、若者も離れなくなるし、むしろ集まってくるのではないかと。
年々人口が減少して街に隙間ができているからこそ、逆にそれらが入る余地も多いですよね。
我々が好きな沖縄のコザもまさにそんな感じで、熱量に若者が集まってきています。コザを含む沖縄市は人口10数万人ですから、年々人口減少しているとはいえ、まだ90万人以上がいる北九州ならば更に大きなスケールでできます。コザも米兵が爆音でワイワイやっているバーの真横に、沖縄のおばあちゃんがやっている地元の洋服屋があったりと、意外と普通に共生してる。もともと何でもありの気質の北九州は更に向いていると思います。
純一郎
ディープな環境で育った方が、免疫の強いタフな人間になる。北九州は著名人も多く輩出していますが、そうなると更に色々な分野でタフでエッジの効いた人材が出てくるのが期待できます。
IRが話題だったときも、北九州は結局、行政、財界、市民が一枚岩になれずに尻すぼみで終わった感じがしましたが、そもそも公営ギャンブルが全部そろってるレアな街だし、現状の成長戦略もいまひとつなので、いっそ振り切ってオール北九州で誘致すれば良かったのではと思いますね。
もちろんそうじゃない方も当然一定層いるでしょうが、歴史の上で今更クリーンなイメージを作ろうとしても、というのもありますね(笑)。
ギャンブルの酸いも甘いも知っている北九州だからこそ、ギャンブルをアートにまで高めました、世界で一番エキサイティングで、なおかつギャンブルとも共生できている街です、というのもありかもしれません。
純一郎
クアンドとOKANOの構想
話を戻しまして、最後に我々は実業家としてどのような北九州をつくっていきましょうか?
我々はやはり、地域産業、レガシー産業をアップデートすることです。
北九州は底力の強い企業が多いので、これをデジタルでアップデートできれば地域としても可能性は大きくあります。産業が強くなれば人も集まってくる、人が集まれば産業もまた強くなります。
純一郎
同時に、日本中、いや世界中のITエンジニアや起業家にとって働きやすい、目指したくなるような街に北九州がなれると、また更に可能性は拡がると思います。
岡野さんが私やクアンドに一番期待してるのは、その水先案内人になることですよね(笑)。
弊社も事業規模を大きくして、いろいろなプロジェクトでご一緒したいと思っています。北九州がギークな街であれば、彼らもより惹きつけられると思います。
純一郎
当社もアップデートできた企業と自信をもって言えるように努力します。お互い風呂敷は大きく広げているのでハードですが、その分やりがいも大きい。
気合をいれていきましょう。本日はありがとうございました。