OKANOのトリクミ
OKANO PARTNERS RYUJI TOKIWAGI

OKANO PARTNERS
INTERVIEW
RYUJI TOKIWAGI

Xから始まる
未来型ものづくり

  • 常盤木龍治
    RYUJI TOKIWAGI
  • 岡野武治
    TAKEHARU OKANO

基幹産業のDXを推進するOKANOがパートナーとともにこれからの産業・地域について考えるOKANO PARTNERS。本稿では代表の岡野と取締役でありDXのエバンジェリストでもある常盤木龍治の2人がOKANOの取り組み、今後の展開について語る。モデレーターは新事業開発本部のウシロが務める。

ウシロさん
USHIRO SAN
モデレーター

2019年岡野バルブ入社。社内の制作物の企画・デザインなどを担当するクリエイティブ部門に所属。経営陣と接する機会が多く、実は社内の事情通。

次世代への鍵、
DXの “X” はヒトから

こんにちは、モデレーターのウシロです。今日はよろしくお願いします。
今、OKANOではDXなど会社全体でさまざまな変革を進めていますが、今日はその取り組みや背景にある考えを、中心人物であるお2人に聞きたいと思っています。せっかくなので工場の中を歩きながらのインタビューです。まずはOKANOの取り組む変革について、その始まりや常盤木さんがOKANOに入られた経緯などを教えてください。

岡野

製造業に限りませんが、企業が存続、発展していくには、同時並行的に新規事業を作っていかないと変化の速い現代では数年先ですら存続が危ぶまれることもあり得る時代です。
変化に対応し、次世代へ事業を拓いていくキーワードとしてDXは必須だと捉え、OKANOではさまざまな業種のDXに精通したプロフェッショナルの常盤木さんに取締役としてジョインしてもらい、2021年から取り組みのスピードアップを図っています。

常盤木

僕は1兆円企業からOKANOのような伝統ある企業まで、さまざまな会社の経営に参画しているんですが、岡野さんにお会いして、前提条件に縛られず、社員のことをすごく考えているし、寡黙な侍だなと感じました。
岡野さん自身が安全地帯に自分を置くのではなくて、自ら脱皮しながら、僕のような物申す人間を取締役に据えようとしていて、岡野さんという人に惚れたと言うか、力になりたいと思いました。

岡野

常盤木さんはDXを筆頭にさまざまなジャンルで活躍されている方なので、三顧の礼どころか十顧の礼でお願いせねばと心に決め、受けていただけたときには思わずガッツポーズをしました(笑)。
まずは社員全員に対して、今の世の中の流れであったり、デジタルとDXの違いであったり、それらがなぜ岡野にとって重要なのか、という話をしてもらいましたね。

常盤木

デジタル庁の立ち上がりが象徴的ですが、日本自体が今、国家戦略としてデジタル化を推進しようとしているので、DXという言葉も頻繁に使われるようになりました。でも実態はほとんどが単なるデジタル化というかCRMや顧客管理システムに留まっています。
実際の現場の “X” (●注釈)、つまり働く人たちやその地域のこと、産業軸レベルで考える人たちがまだまだ少ないというのが実態だという風に感じていて。そんな話もしました。

● Xとは
TransformationのTransは交差の意であるため、交差を表す「X」が用いられる。

残念ながら、世の中の8~9割の会社は、まだまだ単なる業務効率化の域を出ていないと感じています。足元3%とか5%の改善はできても、2桁以上の業績改善にはならない。

岡野

私も含め当社上層部は口下手な者が多いので、常盤木さんの解りやすい説明は社員に強く刺さったように感じました。「変わろう」と思うだけから、一歩前に進み始める社員が増えてきました。

社内でも実際に、意識や言動の変化を感じることが多くなりました。常盤木さんから見て、OKANOの社員はどんな風に映っていますか?

常盤木

皆さん変わろうという意識は感じます、ですがラインの仕事に慣れていると、ロールからはみ出たことがないから、どうはみ出ていいか自体がわからない。依頼を受けたことを丁寧に、誠実に守ることはものすごく得意なんだけれども、一方でゼロベースで自分が何をすべきなのか考えるという文化はなかったので、その意義とかプロセスを理解してもらい始めているというところですね。

岡野

そうそう。それこそ新規事業だけじゃなくて、業務改善レベルでも部分最適化でちょっと変えるのと、抜本的に大幅に変えるのは全く違って、ノウハウがないとなかなか実行できない。
変えようという意識はあるし、やらなきゃいけないとも思っているけれども、やり方が分からなくてできない、というところはあるので、常盤木さんが背中を押してくれる存在になってると思います。

常盤木

突然DXの “X” を進めると戸惑いもあるので、D(デジタル化)を当たり前に使っていくことも並行してやりました。それこそ、もうasanaやmiroとかを使うことから始めて。今では年配の社員もすっかり使いこなしてますね。
そういった些細なところも重要で、OKANOでは、デジタル化による業務改善が、実は自分たちの生活をこんなに豊かにするんだ、っていうのをみんなわかり始めていて、僕としては思っていた以上の手応えを感じています。

変革を推進する人材とは

常盤木さんはOKANOのどういったところに今後の可能性を感じられますか

常盤木

僕は製造業の生産管理のシステムに関わっていたので全国の数百の工場を見てきましたが、岡野バルブの現場を見た時にはニヤニヤがとまらなかったです。
バルブの製造工程そのものが1分1秒を争う形で歩留まり率を上げるための究極の状態を追求している。それはオールデジタル化されていたら、なかなかできないレベルです。これは間違いなく日本でトップクラスのスピリットです。ものづくりにかけるこだわりというか言語化できない侍のハートがある工場だなと思いました。

岡野

あの機械はメーカーさんから「もう自社にも残っていない、ミュージアム級の貴重な機械だ」と言われたほどです。

工作機械の名門、芝浦機械の旋盤。SHIBAURAの刻印が入っている
常盤木

そう、ここの工場って本当に博物館クラスの機械が揃っているんです。メーカーももう持っていない機械をメンテナンス改良しながら使い続けている。僕は日本の機械工場のトップのものをずっと見てきましたけど、もうここにしかない機械が結構残っているんです。

常盤木さんがそんなに褒めてくれると自信になります。

岡野

私としては現場やコア事業のデジタル化はバランスを見ながらでいいと思っています。それに加えて新しい事業をどんどん推進していきたい。その時にこの現場で培ってきた精神も大事で、これは絶対に残したいなと思うんですよね。実際にモノに触れて作り込んでいく時のマインドを忘れてはいけない。

常盤木

僕もそう思います。結局、概念だけあっても具体的にモノを作り出す力がなかったら、企画倒れになってしまいます。自分たちでゼロからクラフトできてかつそこに魂が宿っているという点は、間違いなくOKANOの強みだと思います。

OKANOのように歴史がある会社がDXを進めていく時に、気をつけるべきことはありますか?

常盤木

僕は徳島県上勝町のおじいちゃんおばあちゃんの葉っぱビジネス(●注釈)のシステム導入にも関わらせてもらっているのですが、最近はよく「うちもシステム化、AI化したい」という相談をいただきます。
ただ、その前にそもそもデータのマネージメント、データマーケティングが正しくできないとだめだよね、ということをお話ししています。
まず自分たちの組織内でどんなデータがあると望ましいのかというマスターの定義ができる人材、それから、それを利活用してビジネスにつなげるデータマーケティングができる人材、その二軸が必要です。イノベーションは必ずデータとセットです。

● 上勝町の葉っぱビジネスとは
徳島県上勝町では高齢化と過疎化が進み、自治体の存続が危ぶまれていたが、日本料理の彩りとして使われる「つまもの」を売るビジネスで活性化した。農家と取引先のマッチングにシステムを導入し、農家の意欲を向上させた。農家ごとの出荷商品別の売上実績や個人の成績が見られるため、競争心だけではなく「今の時期はこの商品の単価が高いから、この商品に切り替えよう」など、より収益性の高い商品を出荷しようという意識が生まれた。
常盤木

今、日本のDXを阻んでいる第一の理由は、デジタル系の人たちが現場を全然知らないからだと僕は思っています。データをマネジメントする能力、失ってはいけないものと失っても問題ないものを切り分けることが一番難しい。
だからX人材は、現場を知った地上戦に強い人がデジタルを身につけるのが実は一番いいんです。
“D” だけの人が “X” を定義することは難しいけれど、元々現場にいて “X” を知っている人が “D” を用いて変革することはできる。それが僕が考える最強のDX人材です。今後は現場の人材がデジタルを身につける時代になっていくと僕は思います。

岡野

まさに、弊社の沖縄メンバー(●注釈)もそうですよね。もちろんそういったマインドを持った人が外から新しく入ってくれるのも歓迎だけれど、もともとOKANOにいて、現場を知っている人間が “D” を身につける方が圧倒的に早い。

● 沖縄メンバーとは
OKANOでは沖縄・コザに新規事業推進の拠点を開設。新規事業の事業部メンバーの一部はコザで事業開発に専念している。
常盤木

全くその通りですね。なぜかと言うと “D” だけの人にはイシューが分からないから。
課題の重要度がわからない人にシステムなんて作らせたら大変なことになるのは見えています。実際、現場に必要とされない無用の長物ができあがった例がたくさんあります。

OKANOの
新たな取り組み

私も会社が変化していることを感じますが、一番驚いたのは沖縄に拠点ができたこと。私も一度行きましたが、街の雰囲気はもちろん、オフィスが入っているStartup Lab Lagoonなど、これまでのOKANOとは全く違う環境にとても刺激を受けました。

岡野

沖縄のコザにブランチを作ったのは、既存のメンバーが新たな取り組みに没入できる環境を用意したかったからで、段々軌道に乗ってきました。
うちの社員も元々は専門分野にいたので、外部との交流も限定的だったし、情報量も限られていた。コザでスタートアップマインドを持った人たちや起業家たちと同じ場所に身を置くことで、これまでとは比較にならないほどの情報に触れています。今後も北九州だけでなくそういう機関や場所を積極的に作っていきたいなと思っています。
今、X-BORDERの事業部長をしている佐藤も、もともとはあの旋盤機械を回してたんです。

常盤木

佐藤さんは今コザでいきいきしてますね。
コザで他のスタートアップの人たちと混ざり合える環境に身を置いていると、当然マインドも変わっていく。 自分が持っている本当のエネルギーを発揮し始めているんだと思います。そんな気配がメンバーから既に感じられます。
OKANOに入ってみると、予想以上にポテンシャルを持っている人たちがいました。更にここにグルーヴ感や我こそは腕におぼえあり、という人たちがジョインしてくれると、間違いなく辣腕を振るえる環境になってきていますよね。

岡野

まさに今OKANOは変わり始めていますね。水面下で進めていましたが基本戦略が定まり始めて、ようやく公にし始めました。

これまで外から見えていたOKANOとこれからは、いい意味でギャップを感じてもらえそうだなと思っています。

常盤木

多分誰も想像がつかないんじゃないですかね。

岡野

情報の露出も増やしていくので、新しい層の人とも接点ができると思います。
多様な人との出会いを生み出したいと思っているんですが、マインド的なところで言うと、やっぱり社会とか構造を変えていこうという人たちと一緒にやっていきたいと思っています。
元々いるメンバーの強みは生かしながら、これまでのOKANOには無かった要素を持った人と出会いたいですね。

常盤木

僕も同じ考えで前例なき世界を切り拓いていくことを快感だと思える人が今後もっと集まってくると思います。何かを定義されるのではなく自分で新たな定義を生み出すのが大好きな人。今のOKANOがどうであるというところに縛られない人、新たな航海がしたい人、挑戦者ウェルカムですね。
こんなに製造力があって、かつ伝統のある企業のDXに参画できる機会ってまずないので。

常盤木さんの経験からそう感じられますか?

常盤木

いやあ、少ないですよ。
会社の中核のプロジェクトに中途入社ですぐ混ぜてもらえる会社ってそう多くはないんですね。しかもある程度の規模感で。 逆にもっと大手だと制約も多くなってしまいますが、OKANOは新たなものをゼロベースで生み出そうとしているので一切の制約がないんです。

最後に今後の展望をお聞かせください。

常盤木

OKANOという場にいながら、OKANOというフィールドの外側でも世の中に貢献できるような、社会にとっての “X” を導ける人間を輩出していくことが僕の役割だと思っているんです。
単に3年や5年まあまあヒットしましたよ、というサービスを作るのではなくて、OKANOが社会にとってどんなユーティリティになっていくのか。世界を滞りなく流していくこと自体をどのように支えるのか、というところを設計していこうと思います。

技術がデジタルであるかアナログであるかという視点ではなくて、ユーザーのカスタマージャーニーの設計にまできちんと入って、働いている人がまず「wow」、お客様が「wow」、その先のクライアントが「wow」という状態の連鎖をどう作っていくか。そのグルーヴ感を作ることを重要視しています。

岡野

これまで培ってきた魂や事業は大事にしつつ、対内的には能力を拡げ、対外的には領域を拡げ、世界、日本、地域、産業といったように、より大きな社会課題に挑戦し、解決していく存在になっていきたいですね。社員にも大きなマインドを持って取り組んでもらいたいと思っています。

常盤木

OKANOから産業界そのものを変革していく。日本中の製造業の在り方を根底から変え、世界の威信を再び集める切っ先となっていきましょう。