OKANOのトリクミ
下水管老朽化問題への挑戦。liberaware

パートナーと挑むインフラ老朽化との対峙

 全国各地で対応の急務が叫ばれている社会インフラの老朽化。特に、地下に眠る下水道管を巡っては、相次ぐセンセーショナルな事故の影響もあって人々の話題に上る機会も多い。
 そんな下水道インフラの課題に対処するため、OKANOがあるスタートアップとの協業での取り組みを進めていることをご存じだろうか。社会インフラの課題に立ち向かう使命感が合致して組んだタッグがきっかけとなり、テクノロジーを駆使した下水道管調査に至った動きを中心に両者の動きを追っていく。

1.足元で迫る危機と求められる対策

 日常を通じて意識する機会が少ない下水道管の存在。国内で敷設されている下水道管の総延長は約50万kmに及ぶ。国土交通省によると、標準耐用年数とする50年を経過した管渠は全体の約7%の約4万km、20年後には約42%の約21万kmに達するとされている。各地の自治体予算が潤沢でない現状を鑑みると、下水道管の更新が一筋縄でいかない状況も浮かぶ。

 2025年1月には埼玉県八潮市で下水道管路の破損を起因とした道路陥没事故が発生するなど、既に私たちの生活の安全性を揺るがす事例も生じている。一方で生活排水や産業排水が流れ込む下水道管では硫化水素などの有毒ガスが発生するといった危険が伴う。しかも調査・点検が可能な条件は、排水の流量が少なく、交通量が少ない時間帯に限られる。

 点検を担う人手の確保もままならない状況で、過酷な作業環境を解決させる手立てはないのか。安全性を担保する動きが急ピッチで求められる中、テクノロジーを駆使した点検方法の確立が各所で求められている。

2.畑違いな者たちが融合した出来事

 そうした中、OKANOはあるスタートアップ企業とタッグを組んで解決に挑み始めた。相手は、国産小型産業用ドローン事業を展開するLiberaware。狭隘な場所でのドローンの展開やデータ収集に強みを持つLiberawareは、福島第一原子力発電所内の設備調査を担うOKANOとともに以前から協業を進めていた。

 2024年9月には、関係性をより強固にするため資本業務提携を締結。社会インフラの安全性を守ることを使命と捉える両者は、発電分野以外のフィールドでも双方の知見を生かした取り組みを実践できないか協議を重ねていた。

 そんな最中で起きた埼玉県八潮市の道路陥没事故は、具体的なアクションを進める新たな転機となった。事故を受けて国土交通省は7都府県13ヵ所の流域下水道管理者に緊急点検を要請し、各自治体は老朽化した下水道管の点検に追われるようになる。

3.両者の強みを生かした
「全国初」の取り組み

 OKANOが本社を置く福岡県北九州市でも同様の対応に追われた。下水道管の総延長が約5000kmとされる北九州市では高度経済成長期に敷設されたものも存在し、維持管理において人手・コストの面から長年悩まされている。

 そうした状況下で北九州市から相談を受けたOKANOとLiberawareは、自分たちで可能な解決方法の確立を急ピッチで進めることになった。狭所、暗所でのドローンの展開が得意なLiberawareの強みを生かし、OKANO側が点検プロセスを構築することで北九州市を含めた三者で課題解決に向けた体制づくりを図ることになる。

 相談を受けてから約2か月後の2025年5月下旬。急ピッチによる三者での体制づくりを経て、「全国初」となるドローンによる下水道管調査を実施することになった。光が届かない地下に眠る下水道管にドローンを降ろし、地上で操縦しながら映し出される映像を基に腐食やひび割れがないかと調べる姿は下水道管調査の新たな形を世の中に示した。

 初日の調査対象となった下水道管の長さは約100m。市内全体における下水道管の総延長と比較すると、ほんのわずかの長さでしかない。ただ、労働集約型の過酷な作業で展開してきた下水道管調査の現場に変化をもたらす大きな一歩となったことは間違いない。

4.インフラを守る使命を貫く

 北九州市は、2025年度末までに直径2m以上で設置後30年以上が経過した下水道管・約54kmを対象にした調査を予定している。市内各所に張り巡らされた下水道管の調査は、約20cm四方の高精度なドローンによるテクノロジーを駆使しても並大抵のことではない。

 一方、私たちの生活インフラを巡る危機は待ったなしの状況だ。北九州市に限らず、全国各地で下水道管の老朽化が進んでいる現状に対し、すぐにでも手を打たなければこれまで担保されてきた安全性が一気に崩壊してしまう。両者は北九州で得た知見と実績を基に、今後さらなるアクションを加速させていく構えだ。

 さらに、両者は下水道管に限定されず全国各地の社会インフラの安全性をいかに守るかに照準を置く。老舗モノづくり企業が培ってきた知見とスタートアップが持つテクノロジーとの融合は、すぐそこにある未来を変える使命を帯びながらこれからも突き進んでいく。

About Project

 「誰もが安全な社会を作る」をミッションに掲げ、独⾃開発した屋内狭⼩空間専⽤ドローンによる狭所、暗所の点検作業を得意とするLiberaware。2016年に設立したスタートアップ企業は、社会インフラにひそむリスクをテクノロジーを活用して解決を図ることで取り組みを広げてきた。
 誰もが安心して暮らせる社会を目指す使命は、OKANOが創業以来貫き続けたモノづくりにも通じる。発電インフラで用いられるバルブは日頃注目されることはないが、社会生活を円滑に送る上で欠かせないキーパーツだ。
 両社は2024年に資本業務提携を結ぶ前から、共同でプロジェクトを展開して関係性を深めてきた。現在推し進める下水道管路の点検以外にも、今後も互いのリソースを生かしながらさらなる可能性を探っていく。