OKANOのトリクミ
マチが元気になる。Community Nurse

「おせっかいな人たち」が
北九州・門司で生み出す
新たな地域のカタチ

地域に暮らす人々によるゆるやかな結びつきから、助け、助けられるつながりを築く「コミュニティナース」。まだ耳慣れない言葉と取り組みは島根で産声を上げ、全国各地に広まろうとしている。

活動を担うのはコミュニティナースを事業として展開する株式会社CNCだ。「おせっかいな人たち」が人々の願いや希望を見い出してコーディネートする活動は、“幸せを感じながら元気で楽しく生きていく社会”を育む重要な使命を持つ。

そんな取り組みがOKANOの「ホームグラウンド」である北九州・門司の大里地区で始まった。CNCとOKANOはどんな形で手を組むことになったのか。2024年に始まった両者の営みは、これからの地域のカタチを描く上で試金石の意味を持つ。

1.人とまちを元気にする
「コミュニティナース」の存在

「コミュニティナース」は、CNCの代表取締役・矢田明子氏が父の死をきっかけに着想したことに端を発する。大学卒業後コミュニティナーシングの担い手の育成を始め、2017年に法人化。島根県雲南市に拠点を構え、これまで全国の自治体や企業との連携によって活動を進めてきた。

CNCのホームページにはコミュニティナースの概念について次のように記している。

「コミュニティナーシング」という看護の実践からヒントを得て、暮らしの身近なところで元気なうちから『毎日の嬉しいや楽しい』を一緒につくり、心身そして社会的な健康やウェルビーイングに寄与する、誰もが実践できる行為・あり方です。(要約)

この言葉を嚙み砕くと、「近所にいるちょっとおせっかいな世話焼きおばさん、おじさん」をイメージするといいだろう。仮に、幼稚園の送迎で困っているワーキングママと、子ども好きな高齢者がいた場合、コミュニティナースが両者の間を取り持って散歩がてらにお迎えに行ってもらうことを提案するといった接点を生み出していく。互いが助け合うきっかけをつくることでハッピーを生み出すことが、ナースたちによって生み出される価値といえる。

「ナース」の言葉から医療や介護の領域を想像しがちだが、実際は「ナーシング(他者の健康や成長を支える行為全般を指すありかた)」の考え方に基づいて住民の心と体、あるいは社会的な健康づくりに関わっていく。看護資格の有無に関わらず活動ができ、対象の住民も看護や介護が必要な人に限らない。

CNCの活動には、かつての日本にあったご近所づきあいのように、互いが程よい距離で気にかける「おせっかい」な関係が根源に息づいている。

2.「畑を耕す」ために始まった
新たな一歩

そんなCNCの活動に共鳴し、OKANOは運営オーナーとして2024年に大里地区での活動について後押しを始めた。自治体との連携を通じて実績を重ねてきたCNCにとって、企業と組んでの活動は今後の広がりを占う大きな布石といえる。

1926年に創業し、北九州・門司の街とともに歩んできたOKANO。「次の100年」を見据える上でも「地域」は欠かせない存在だ。運営オーナーとなることは「地域にコミュニティナースのような仕組みがあることで『このまちに住もう』というモチベーションになるのではないか」(社長の岡野武治)といった視座に基づく。

行政が主体で担ってきた公共的、福祉的な領域に対し、民間企業が入り込むことはこれまである意味タブーとされてきた。ただ、地域の在り方が変化する時代において、CNCのようなプレーヤーと協働することは長期的視点でみると「畑を耕すような感覚」(岡野)に近い。

全国の政令指定都市において人口減少率、高齢化率のトップを走る北九州市。なかでも門司区は市内で2番目に人口減少率が高く、少子高齢化は長年の課題となっている。言うなれば「おせっかい」の担い手が少ない地域であると同時に「おせっかい」の恩恵を受ける人々が多い地域でもある。CNCにとって門司での活動は、都市部でありながら高齢化が進む地域における実践フィールドとしても重要な意味を持つ。

3.商業施設を「ベースキャンプ」に始まった活動

CNCが門司で活動を始めるにあたり、2024年5月に開いた採用説明会には50名超が集まった。説明会では矢田明子氏から事業のコンセプトや実際の活動内容、どのように地域や人とのつながりをつくるかといったエピソードが語られた。

並行して活動拠点についても検討を重ねた。地域の人とつながり、生活の中の願いを見つけるには、その地域の暮らしの動線上で活動することが欠かせない。全国各地でのコミュニティナースの活動を見ると、郵便局や移動販売、宅配サービスのスタッフなどが、子育て世代や高齢者の相談に乗ったり、行政に繋いだり、役割を超えて関わりを育んでいる。

そうした実例をふまえ、2024年8月に商業施設・ゆめマート門司内にある「こどもまちなかスペース」を協働拠点として活動をスタートした。こどもまちなかスペースは北九州市による子どもや子育て家庭を支援する施策の一環として企画され、開設には地元高校生も携わった場所でもある。子どもから学生、買い物に来た主婦層や高齢者まで、地域の幅広い世代とつながれることが決め手となった。

活動には研修を終えた3名が第一陣として走り出した。地域の人に愛される「おせっかい」が、届きそうで届かなかった地域の痒いところにまで届くように、地域で人と人とのつながりを増やしていくことを目標として活動を続けている。

4.「株式会社モデル」の
広がりがもたらす可能性

地元で自助共助ができる環境づくりを進めるために始まった、CNCによる門司での活動。「畑を耕す」ような活動によってナースたちが蒔いた種は、少しずつ芽を出そうとしている。

CNCによる門司での活動は、企業×コミュニティナースによる「株式会社モデル」の仕組みが全国各地へと広がるきっかけのひとつにもなっている。企業が資金を投入して運営するコミュニティナースのあり方は、制約が多い自治体との活動と比べて圧倒的なパフォーマンスを出せる可能性を秘めている。

実際に福岡県内では西部ガスがコミュニティナース事業に参画。埼玉県のスーパーマーケット・ヤオコーもスタートさせるなど、各地で株式会社モデルの取り組みが広がり始めてきた。

コミュニティナースの活動が全国に広がることは、人と人、人と地域の関係が希薄になった日本を変え、ウェルビーイングを加速度的に向上させる可能性を持つ。北九州・門司で踏み出した一歩は、「畑を耕す」意味で鍬を入れる役割を果たしているのかもしれない。

About Project

「コミュニティナーシング」という看護の実践からヒントを得て、地域に暮らす人々によるゆるやかな結びつきから、助け、助けられるつながりを築く「コミュニティナース」。
元気なうちから『毎日の嬉しいや楽しい』を一緒につくり、心身そして社会的な健康やウェルビーイングに寄与する取り組みは、矢田明子氏による実践から始まり、2017年に法人化して主に自治体との連携によって取り組みを広げてきた。2024年からはOKANOとタッグを組み、北九州・門司では現在3名のコミュニティナースが地域の「おせっかい役」として住民の願いを叶えるために奔走している。
企業がCNCの活動をオーナーとして協働する「株式会社モデル」の形態は各地で広がりを見せ始めており、その先駆けとなる北九州・門司での活動はその成否を占う重要な意味を持つ。

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